公然と消える「保育士給与」ありえないカラクリ 国も黙認する、都合のいい「弾力運用」の実態

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保育士の給与はどこに消えているのでしょうか?(写真;mits / PIXTA)

新型コロナウイルスの感染が拡大して緊急事態宣言が発令されるなかで、「保育士の不当な賃金カット」が全国で起こり大波紋を広げた。保育園を休業しても、認可保育園などで働く保育士の給与は満額支給されることを国が保証しているにもかかわらず、現場の判断による大幅な賃金カットが後を絶たない。

この問題について、筆者は「コロナで保育士の『給与4割カット』は大問題だ」(4月21日)、「コロナがあぶり出した保育士の『ありえない格差』」(5月31日)、「全国で波紋『保育士賃金カット』横行の残念実態」(6月5日)の3回に渡って報じてきた。

後述するように保育士の給与は保育園運営の構造上、多くの園で低く抑えられている。そこにさらに今回のような賃金カットを行うと、保育士の離職といった人手不足につながり、待機児童問題の解決をますます遅らせる要因になる。日々の保育の質にも関わりかねない。

なぜこのようなことが起こるのか。その背景には、筆者がかねてより指摘してきた「委託費の弾力運用」の問題がありそうだ。

私立の認可保育園が受け取る運営費である「委託費」。その大部分を占めるのが人件費だが、保育士に全額を支払うことなく、他に流用しても良いとされている。そのため、事業者側のなかには「人件費を満額支払わなくてもいいものだ」という認識が浸透してしまい、保育士が低賃金になる温床になっている。

その結果としてコロナ禍の中、保育士の不当な賃金カットが起きてしまったのではないだろうか。本稿では「委託費の弾力運用」とはどういう仕組みなのかを解説し、本来もらえるはずの保育士の給与額と実際の支給額に大きな差があることを検証する。

給与はどこに消えるのか?

「コロナでカットされた私たちの給与は、いったい、どこに消えるのか」

保育士らの疑問が膨らむ。都内のある保育士は、「園長は”収入が減る”の一点張りで、賃金カットの理由を明確にしない。国が園の収入が減らないよう委託費を出しているというのを、まるでフェイクニュースといわんばかり」と憤る。

また、ある保育士は「私は正職員だからコロナでもフル出勤だったのに、諸手当がつかず手取りが20万円を切っていた」と納得がいかない。他の保育士は、「不当な扱いはコロナの時ばかりではない。私たちは保育で必要な折り紙でさえ満足に買う費用が渡されない。絵本もない。積み木もない。自腹を切って100円ショップで買うしかないのに、(私立保育園の)経営者は高級車を乗り回している」と不信感を募らせる。

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