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何をしたいのかわからない野党に支持は集まらない

菅原琢・政治学者
立憲民主党常任幹事会で発言する枝野幸男代表=衆院第2議員会館で2020年10月13日、竹内幹撮影
立憲民主党常任幹事会で発言する枝野幸男代表=衆院第2議員会館で2020年10月13日、竹内幹撮影

 与党に対抗するために野党は何をすればよいかという意見募集は、日ごろは政治プレミアを読んでいないようなみなさんからも注目されたようで、今回はいつも以上に多数のコメントいただきました。

 <ご意見募集>与党に対抗するために野党は何をすればよい?

 言うまでもなく、野党のあり方は民主主義国家では政治の質に直結します。野党に競争力が無ければ政党政治は緊張感を失い、政権与党は有権者を顧みなくなるでしょう。野党が政権を狙えるくらいに強く、人々の支持を受けていれば、支持を奪われたくない与党は野党の政策を先取りするなどして対抗するでしょう。立憲民主党などの野党に対する期待や不満は、日本の政党政治の健全性のバロメーターとも言えるわけです。

 しかし野党第1党の立憲民主党ですら、少なくとも世論調査では十分な支持を集めているとは言えません。意見募集記事では、“新生”立憲民主党について「政権に批判的な人々から一定の評価と期待を集めている」と述べましたが、これは皮肉です。野党が与党に対抗するには政治低関心層、投票棄権層などからも支持を集め、投票してもらう必要があります。しかし、政権を批判しており、その意味で政治への関心が高い一部の人々からしか注目されていないのが、今の野党の現状なのです。

 そこで、中村喜四郎衆院議員の記事を手掛かりに、何が野党に不足しているのか考えていきたいというのが意見募集の趣旨です。まず今回の意見募集の対象となった中村議員の記事に関して整理し、その後にみなさんのコメントを紹介しながら議論していきたいと思います。

 なお、なるべく多くのコメントを紹介するために断片的にコメントを引用する場合があります。またそれでも、紹介できないコメントのほうが多数に上ります。これらの詳細を知りたい場合には、先ほどの意見募集記事のほうでご確認いただければと思います。

野党に必要なのは古い選挙運動?

 中村議員は、野党は政権交代ではなく「保革伯仲」を目指すべきだと主張しています。そのために、(1)投票率アップのために署名を集める(2)外交防衛に関し独自の政策を発する(3)衆院選挙制度を再び改める、という三つを野党が行うべき具体策として提起していました。

 <投票率10%アップで「保革伯仲」を実現する>

 「保革伯仲」という言葉は、政治に詳しい政治プレミアの読者のみなさんなら知っている方も多いかもしれませんが、「保守」と「革新」の2つの勢力が拮抗することを意味します。ちなみに「ほかくはくちゅう」と読みます。

 この言葉が流行し定着したのは1970年代のことです。旧社会党と共産党など左派政党が主導する革新自治体が増える一方、国政選挙で自民党は議席を減らし、汚職や派閥の争いも続き自民党が下野する可能性が現実味を帯びていた時期です。ただこれ以降、「保革伯仲」は日本の政治状況に関して頻繁に使用されることはなく、旧民主党など近年の野党勢力を「革新」とは呼ばなくなったこともあり、ほぼ死語と言ってよい言葉となっていました。

 この言葉が用いられていたことも含め、記事を読んでのモデレーターの第一印象は「古い」というものでした。ただし、これは決して悪い意味ではありません。

 先の記事の中で中村議員は、自身が主導した「投票率10%アップを目指す108万人国民運動」が各候補の後援会作りの中間点であるとしています。選挙が労組などの組織頼みになっていて、選挙区地盤の醸成という昔ながらの日本型選挙の基本が現在の野党ではおろそかになっていると、かつて自民党の中枢にいた中村議員の目に映ったのでしょう。これを「あさ」さんは「中村氏の運動は選挙区で足で稼げって意味で有益かと」と評しています。

“どぶ板”選挙で選挙区の差は埋まるか

 選挙区での選挙運動に力を入れるべきだとする点は、「パストラル」さんや「hangman」さんが期待を寄せている小沢一郎衆院議員が、かつて旧民主党を率いていた時代に通じるものがあります。中村議員も自民党政治家の“足腰”の強さを知っているからこそ、これに対抗するためにはまず地盤作りだと感じたのだと思います。

 「がんばれ野党」さんは「野党支持者や無党派層に野党が勝てるかもしれないと思わせないと『どうせ自民党が勝つんでしょ』と諦めて投票に行かないのです。だから投票率が下がるのです」と指摘しています。これは、「『政権を変えられる可能性がある』『政治は面白い』というところに持っていくことが、野党が政権批判の受け皿になるために必要だ」という中村議員の主張と重なります。

 ある候補が圧倒的に強く勝利するだろうと予測される選挙区では、選挙への興味を失う人が続出し、投票率は高まりません。逆に言えば、どちらが勝つかわからない、逆転もあるかもしれないというように、選挙結果の予測が容易でない興味を引く選挙となれば、現状では劣勢の野党候補にも票が流れてきます。

 興味を引く対立構図を作り出す努力は、現在の野党にまだ不足している点であり、かつ改善も可能な点です。近年の衆参両院の選挙では、自民党と公明党の政権与党が圧勝しています。しかし、これは獲得議席数に限った話で、たとえば比例代表の得票数を比較すれば全体の獲得議席数ほどの大差はありません。でも、選挙区ではこうした票を吸収しきれていないため、議席数で大差がつくのです。

 比例代表で善戦しているのに選挙区で引き離されるのは、議席数で大差がつきやすい小選挙区の効果もありますが、それ以前に野党側の体制が整っていないことが要因です。衆院の小選挙区を見ても、北海道、新潟、沖縄など一部の地域では、野党が協力して1対1の対立構図を作り出し、善戦、あるいは優位に立っています。しかし、多くの地域では協力体制が築けず、候補を擁立するだけで精一杯です。

 しかし、ここで野党第1党が足腰の強い候補を数多く擁立できれば、他党が引いて体制はまとまりやすくなります。政権に批判的な有権者から見ても誰に投票すればよいかが明確になります。それが好きかどうか、良いかどうかは別にして、現在の制度と環境の下では、“どぶ板選挙”が立憲民主党などの野党に必要だという主張は筋が通っています。

投票率が上がれば野党が勝つというのは幻想

 もっとも、その目的が投票率アップにしても野党候補の足腰強化にしても、「署名運動」という方法が有効のようには感じられません。そもそも、署名を集めてどこに持っていき、誰に向かって訴えるのでしょうか? モデレーターの目には、支持基盤強化を兼ねた署名活動は、お仲間を募って棄権者を囲んで投票に行けと責めたてる行為のように見えます。

 小泉自民党が圧勝した2005年衆院選や旧民主党が政権を奪取した09年衆院選では、投票率は70%近くにまで達しました。一方、昨今の衆参両院の投票率は50%そこそこです。これら棄権者が再び投票所に向かい、その多くが現在の野党に投票するならば、伯仲どころか逆転も簡単です。しかし、もちろんこれは机…

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政治学者

1976年生まれ。東京大学先端科学技術研究センター准教授など歴任。専門は政治過程論。著書に「世論の曲解」、「データ分析読解の技術」、「平成史【完全版】」(共著)、「日本は「右傾化」したのか」(共著)など。戦後の衆参両院議員の国会での活動履歴や発言を一覧にしたウェブサイト「国会議員白書」https://kokkai.sugawarataku.net/を運営。