新型コロナウイルス影響下の総選挙、与党PAPが勝利、得票率は低下

(シンガポール)

シンガポール発

2020年07月15日

与党・人民行動党(PAP)は7月10日実施の議会総選挙で、定数93議席中83議席を獲得し、憲法改正などに必要な3分の2以上の圧倒的多数で勝利を収めた。ただ、PAPの得票率は61.2%と、前回の2015年の総選挙時の69.9%を下回った。一方、野党の労働者党(WP)はこれまでの6議席から10議席へと議席を伸ばした。

PAPは今回の新型コロナウイルスの感染の再拡大を警戒する中、2021年4月までに実施予定だった総選挙の前倒し実施に踏み切った(2020年6月24日記事参照)。WPは今回の選挙でこれまでの1グループ選挙区(5人区、注)と1人区に加え、もう1つの4人区のグループ選挙区を獲得した。この結果、同4人区から立候補していた全国労働組合会議(NTUC)議長を務めるウン・チーメン首相府相、ラム・ピンミン上級国務相(保健・運輸担当)とアムリン・アミン上級政務次官(内務・保健担当)が落選した。

PAPは今回の選挙活動において、新型コロナウイルスの影響で経済が悪化する環境下での国民の職の確保を全面的に打ち出し、危機を乗り越えるためには「力強い国民の支持」を訴えた。これに対し、野党の中で唯一議席を持つWPは、国会での意見の多様性の必要を訴え、与党に「白紙小切手を与えてはならない」と主張していた。

リー・シェンロン首相は翌11日早朝の会見で選挙結果について、PAPが国民の「明確な支持を獲得した」と述べた。その上で、リー首相は「得票率は望んでいたよりも高くはなく、グループ選挙区を1つ失った」と指摘した。同首相は、「国民はPAPが政権を獲得することを望んでいるものの、特に若い有権者は国会での野党の存在拡大を求めた」ことが、今回の選挙結果につながったとの見方を示した。

今回の総選挙では野党はWPのほか9党が候補者を擁立した。この中には、リー首相の弟のリー・シェンヤン氏が支持して注目を集めたシンガポール前進党(PSP)も含まれたが、WP以外の野党は議席獲得に至らなかった。

(注)グループ選挙区(GRC)は4~5人の候補者を擁立する選挙区で、華人以外の少数民族の声を国会に反映することを目的に、候補者の少なくとも1人が少数民族である必要がある。今回の選挙では、17のグループ選挙区、14の1人区で、与党のほか、WPを含む野党10党、無所属(1人)の合計192人が立候補した。

(本田智津絵)

(シンガポール)

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