香港の若者が「自分は中国人じゃない」と思う訳 国家安全法で秩序が戻っても人心は離れたまま

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国家安全法の施行で香港は厳戒態勢に入っている(写真:ロイター/アフロ)

7月2日の香港株式市場、祝日である香港返還記念日(7月1日)明けのマーケットは沸いた。代表的な株価指数であるハンセン指数は6月30日比3%近く上昇した。

「国家安全法が施行され、香港社会や経済に安定が戻ることに期待が出たのでは」。イギリス金融大手HSBCホールディングス傘下、香港上海銀行のトレーダーの1人はそう話す。

「金儲けの人たちは別世界」

6月30日、香港で反政府的な動きを取り締まる「香港国家安全維持法(国家安全法)」が中国の全国人民代表大会常務委員会で可決・成立した。これを受け、香港政府は同法を即時施行。国家分裂や外国勢力と結託して国家の安全に脅威をもたらすことなどを犯罪行為と規定し、中国当局が香港の治安維持に直接介入できるようになった。香港に高度な自治を認める「一国二制度」を骨抜きにした。

国家安全法を歓迎する声は多少ある。香港の繁華街・旺角(モンコック)にある貴金属店の50代の店主は「(2019年からの)抗議デモに新型コロナと災難が続いていたので、落ち着いて大陸(中国本土)からの客が戻れば」と話す。

売り上げの7割は中国本土の観光客によるものだった。それが2019年半ばから本格化した中国本土に犯罪者の引き渡しを可能とする「逃亡犯条例」改正案への抗議デモで消失。国家安全法が運用されてデモを抑えられれば、中国人客への売り上げが回復すると期待を寄せる。またロイター通信は香港金融界のなかで中国本土の資金がさらに流入してくることに期待する声があることを伝えている。

だが、香港が誇ってきた自由や司法の独立が傷つくことで世界的な金融都市の地位が危うくなる懸念の声は外資系企業を中心に根強い。そして、国家安全法に反対する声は大きい。6月上旬の現地大手紙の世論調査では6割が同法に反対。施行翌日の7月1日も禁止されていたにもかかわらず、多数の市民がデモなどの抗議活動に参加した。

デモに参加した大学生のエイミーさん(仮名)は「何もせずにこのまま自由を失いたくない」と一縷(いちる)の望みにかける。「金儲けのことばかり考えている人と自由を守ろうとしている私たちは違う香港に住んでいる」と国家安全法に賛成する一部の人たちと隔たりがあることを強調した。

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