NZ Wine Column
ニュージーランドワインコラム
ホークス・ベイ 2020年ヴィンテージ・レポート
第209回コラム(Jun/2020)
ホークス・ベイ 2020年ヴィンテージ・レポート
Text: 寺口信生/Shinobu Teraguchi
寺口信生

著者紹介

寺口信生
Shinobu Teraguchi

MUTU “睦“ワインメーカー | ワイン醸造技術管理士(エノログ) 日本では成城石井の子会社である東京ヨーロッパ貿易の代表取締役として、輸入商品の統括、特にワインに関してはエノログの知識を活かしアドバイスを行った。2017年にNZに移住、ニュージーランドで最初にワインが造られたホークス・ベイで、2019年よりMUTU“睦”ブランドワインメーカーとしてワイン醸造を行う。ワインは2021年より(株)都光を輸入元として全国で販売されている。現在ネイピア在住。

この著者のコラムを読む

更に表示

6月になり、忙しい収穫とワイン醸造も一段落しました。
皆さん初めまして。寺口と申します。移住して3年、これからホークス・ベイの魅力を定期的にお伝えしていきます。
2020年はコロナ禍による自粛規制の中でのワイン醸造となりましたが、その品質はまれにみる素晴らしいものとなりました。今回はその詳細をレポートします。

ホークス・ベイはオークランドから飛行機で1時間、ニュージーランドで最も日照量が多い、また雨が少ない地域なので、ブドウの栽培には最適です。ワインの生産量はマールボロに続く第2位です。オークランドから近いこともあり、ワイン・ツーリズムも盛んで多くのワイナリーがセラー・ドアーを開いています。

今ヴィンテージの天候の推移ですが、2019年8月~10月は十分な雨があり芽が出始めるこの時期は例年通りのスタートでした。花が咲く11月には、月中史上最高気温を記録、その後の生長期の12月は例年以上の雨(ホークス・ベイは100%以上)でした。その後、ブドウの実が熟しだす2020年1月、2月は打って変わって例年の50%以下の降雨量となり、2~3日に1回シャワーがある程度で、また気温も例年より1度程度高めで推移しました。雨は収穫最後までほとんど降らず、夜の気温が12度程度、昼間は25度程度と理想的な状態で進みました。
白ワイン用ブドウのシャルドネは糖度23ブリックスマールボロソーヴィニヨン・ブランは糖度21ブリックス、赤ワイン用ブドウはメルローが糖度25.5ブリックスシラーは糖度26ブリックス!と例年より高くなりました。

2020ヴィンテージの特徴は、乾燥した年であったということです。雨がほとんど降らず水の使用制限が出るほどだったので、ブドウはとてもきれいで病気の心配はありませんでした。また、水分が少ない分、収量が若干下がりましたが、その分濃縮されたブドウが収穫されました。

私は現在Moana Park Estate Wineryでワイン造りをしています。日本では帯広畜産大学を卒業し、余市町のワイナリーに就職。7年醸造現場でワイン造りをした後、ニュージーランドにワーキングホリデーで1年滞在、1996年に帰国後は株式会社成城石井でワイン・セレクションを20年にわたって行いました。ですので、皆さんの中に私のワイン・セレクションを飲まれた方もいらっしゃると思います。2017年50歳になったのを機に、ニュージーランドに移住し2年セラー・ハンドとして数社で働いた後、同ワイナリーでヘッドワインメーカーのダン・バーカー(Dan Barker)氏、シニアワインメーカーのジョン・ハンコック(John Hancock)氏と3人でワインを造っています。

ダンはニュージーランド人で、今年29回目の収穫、イギリスDecanter誌のヴィオニエ部門世界一位を始め輝かしい成績を残しています。ジョンはオーストラリア人で同じくホークス・ベイのトリニティ・ヒルの創業者、“シャルドネのマジシャン”とも言われた、国内外を含め50回の収穫経験を誇る重鎮です。さらにワイン醸造を勉強しているアメリカ人のブランドン君がセラーハンドとして加わり、4か国の国際チームが今年のワインを造りました。ワインの仕込みは、最高のブドウが取れたこともあり、また、収穫後も好天が続いたため全てがとても順調にいきました。

ダンは、「今年はブドウが成熟する時期の最高気温こそ2013年ほど高くはなかったが、理想的な状態が収穫最後まで続いた。例年雨との兼ね合いで収穫日を考えなくてはならないが、今年はブドウの熟度が最適になるまで待つことができた素晴らしいヴィンテージだ」といっています。ジョンは「今まで50回の収穫を見てきたが、今までで最もヘルシーで素晴らしい状態のブドウが収穫できた。特にシラーはバランスも良く濃縮感がありながらエレガントな味わいとなっている。」とコメントしました。

収穫中は週1日12時間以上、週6日勤務というハードワークが続きました。特に今年はコロナ禍の影響で、ブドウの収穫の人員確保が難航するなど大変でしたが、何とか乗り切ることができました。新酒の味わいはどれもクリーンでバランスがとれています。この土地のテロワールが凝縮されてしっかりとワインに表れています。2020年産はホークス・ベイ・ワインの見本となるでしょう。

今、ワイナリーは静かな熟成の時間を迎えています。2020年はソーヴィニヨン・ブランなどが9月ころから、シャルドネシラーメルローは1年樽熟成してからの出荷となりそうです。特にシラーは醸しを長くして、新樽比率も上げた特別なワインを造っています。こうご期待です。

そして、当社の2019年エステート・シリーズ ソーヴィニヨン・ブランが5月からコストコ全店で販売されています。エステート・シリーズは皆さんにニュージーランドワインの楽しさを知っていただくために、シンプルにブドウの良さが表れるようなエントリー・レベルのワインです。是非お試しください。

Moana Park Estate Wineryでは、セラードアをオープンしています(詳細はHPをご確認ください)。事前にご連絡いただければ日本語でご案内いたします。ネイピア市内から車で20分です。もしくは地元のワインツアーをご利用ください。おいしいピザを焼いています。

では次回もお楽しみに。Cheers(乾杯)!

SHARE